アレイスター・クロウリーというと魔術の人だが、『ジャーゲン』にはクロウリーの影響の色濃い章がある。第22章はコカイン国にやって来たジャーゲンがアナイティスとヴェールを破る儀式を執り行って結婚するのだが、この儀式がクロウリーの魔術の儀式をなぞっているのである。その儀式は『魔術 理論と実践』(国書刊行会)で読むことができる。
O・T・O 〈第十五の書〉「グノーシスのミサの書」の中の「IV〈ヴェール〉を開ける儀式について」である。
たまたまRalph Tegtmeierという人の書いたクロウリーの評伝Aleister Crowley, Die tausend Masken des Meisters (Knaur, 1989) を手に入れて、ページを捲ってみたら、クロウリーが好んで読み影響を受けた作家や作品を紹介するところに、SFや幻想怪奇小説の作家作品が並んでいて、「特にクロウリーが高く評価していたのが、アメリカの作家ジェイムズ・ブランチ・キャベルだった。反社会的内容を含む《マニュエル伝》に属する『ジャーゲン 正義の喜劇』のある章では、クロウリーの「グノーシスのミサの書」に出てくる儀式が描かれているせいもあった」というようなことが記されていて、それはこの章のことを指しているわけである。