親子二代の推薦文

今回、本に挟み込んだり書店に配ったりする《マニュエル伝》パンフレットの推薦文の一つを池澤春菜さんに書いていただいた。以前に一度、堺三保と池澤春菜さんがゲストと話をする「SFなんでも箱」というのに出演したときにお話したことがあるだけで、特に親しいわけでも何でもないのだが、恐る恐るお願いしたところ快く引き受けたいただけたのである。

実は『夢想の秘密』がかつてやはり国書刊行会から出たときに挟み込まれていた月報に、池澤夏樹さんの推薦文(?)が載っているのである。つまり親子二代で《マニュエル伝》の推薦文を書いていただいたということになる。

短篇版ジャーゲン

Jurgenは1919年の刊行だが、その前の年に短篇版がSmart Set no. 245に掲載されているのである。長篇版の第1章と44〜49章で構成されているのだが、そこだけ読んで面白いのだろうか。

短篇版はリン・カーター編Realms of Wizardry (Doubleday, 1976)で読めるのだが、今調べてみたところ、オリジナルのSmart Setをpdf版で無料でダウンロードできるではないか。Some Lady and Jurgenというタイトルである。 Smart Setリンク先

あと、スモイト王の身代わりになって幽霊を演じるところは、1902年にArgosy誌にAn Amateur Ghostというタイトルで発表されている。この二つの話を長篇版ジャーゲンにとりこんだわけだ。こちらもpdfで読める。 Argosyリンク先

これらの資料については、James Branch Cabell : An Illustrated Bibliography で読める。

《マニュエル伝》第1回配本『ジャーゲン』刊行記念 先行販売

国書刊行会のサイトに案内が出たように、鶯谷の書店DORIS (古書ドリス)にて「『ジャーゲン』刊行記念 先行販売サイン会」が開催されます。

詳細はリンク先を見ていただくことにして、パペの挿絵の入った原書なども、手に取って見ることができるうえに、どうしても欲しくなったら購入することもできたりするので、ぜひDORIS (古書ドリス)で『ジャーゲン』をお買い上げいただきたくお願い致します。

こんなところにジャーゲンが! その3「火星人と脳なし」

シオドア・スタージョンの「火星人と脳なし」にジャーゲンが出てくる。霜島義明訳を『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』(若島正編/河出書房新社)で読むことができる。何か噛みあわない会話の中に出てくるだけだが、フォークナーとキャベルと並んで出てきて、そういえば、フォークナーの作品にもジャーゲンが出てきたではないかと思い出したりするわけである。

まあ、それだけの話ではあるのだけど。

スタージョン全集の第五巻に収録されている。The Martian and the Moronである。

この作品、Weird Tales 1949年3月号が初出なのだが、たまたまその号を持っていた。

あと十日

いよいよ『ジャーゲン』の刊行まで一週間と少しになった。そこで、今回は特別に製本前の刷り出し(一部抜き)をこっそり見せてもらったので紹介したい。

V字型に背丁が綺麗に並んでいるが、全部で31折ある。紙は、まっ白のぴかぴかではなく、目に優しく少し軽めになっている。つるつるの表面でないのでインクがくっきり出ているだろうかと心配になったが、これが綺麗なのである。特に難しいのがパペのイラストだろうが、これも濃淡の微妙な調節で細かいところまでよく再現されている。同時に活字の方もくっきり読みやすい。

このパペのイラストはオリジナルの印刷は綺麗なのだが、後の時代の再版では、目の粗い網が目立ち、ぼんやりとした像しか見えず、こんなものなら載せない方がいいくらいだと思いたくなるようなものが多いが、今回の国書刊行会版は細かいところまで見て取れる印刷となっている。作品理解に重要な小物が登場していることもあるので、決して蔑ろにしてはならない。本が刊行されたら挿絵も含めて細部まで舐めるように観賞していただきたい。

Frank C. Papé

1919年から1930年にかけて、Frank C. Papéはキャベルの本9冊にイラストを描いたようだ。ほぼ同時期に、アナトール・フランスの本6冊にもイラストを描いている。評判はよかったようだ。キャベルの作品については、作品の理解に重要な手がかりが描かれていたりする。今回刊行の3巻にも収録した。ここでは、アナトール・フランスの『ペンギンの島』に描いたイラストを紹介する。

表紙と扉はこんな感じ。パペとは特に関係はないが、本の姿として示しておかなければいけないような気がして。

そして、見返し部分には見開きいっぱいに広がる絵がある。

あと、扉の向かい側にある絵と、本文中の絵を示す。こいうのがもっとたくさんあって、パペの絵のためにこの一冊を買う価値はあると思うのだ。

書き忘れていたが、The Godly Headから1925年に刊行された本である。私が持っているのは1929年の第7刷のようだ。

キャベルとノーベル賞

ジェイムズ・ブランチ・キャベルの話をすると、キャベルに詳しい人ほど、「そういえばノーベル賞候補になったことがあるのでは? そのことを宣伝したらどう?」というのである。私もそうだったんだと思っていたのだが、ノーベル賞候補者データベースで検索してもキャベルは出てこない。1930年のSinclair Lewisが受賞講演でジェイムズ・ブランチ・キャベルの名前を出した記録は出てくるのだが。

And had you given Mr. James Branch Cabell the Prize, you would have been told that he is too fantastically malicious.

ここである。もう一箇所は、

It does not include the novelists and short-story writers, Willa Cather, Joseph Hergesheimer, Sherwood Anderson, Ring Lardner, Ernest Hemingway, Louis Bromfield, Wilbur Daniel Steele, Fannie Hurst, Mary Austin, James Branch Cabell, Edna Ferber, nor Upton Sinclair, of whom you must say, whether you admire or detest his aggressive socialism, that he is internationally better known than any other American artist whosoever, be he novelist, poet, painter, sculptor, musician, architect.

ここなどは、大勢の中の一人で、特別キャベルが評価されている感じでもない。こんな検索、以前はできなかったから、この辺りの言葉からキャベルが候補になったという言葉が広がったのだろうか。

ちなみに、ロード・ダンセイニは候補になっている。1950年にDublin centre of Irish PENの推薦で。

アレイスター・クロウリー

アレイスター・クロウリーというと魔術の人だが、『ジャーゲン』にはクロウリーの影響の色濃い章がある。第22章はコカイン国にやって来たジャーゲンがアナイティスとヴェールを破る儀式を執り行って結婚するのだが、この儀式がクロウリーの魔術の儀式をなぞっているのである。その儀式は『魔術 理論と実践』(国書刊行会)で読むことができる。

O・T・O 〈第十五の書〉「グノーシスのミサの書」の中の「IV〈ヴェール〉を開ける儀式について」である。

たまたまRalph Tegtmeierという人の書いたクロウリーの評伝Aleister Crowley, Die tausend Masken des Meisters (Knaur, 1989) を手に入れて、ページを捲ってみたら、クロウリーが好んで読み影響を受けた作家や作品を紹介するところに、SFや幻想怪奇小説の作家作品が並んでいて、「特にクロウリーが高く評価していたのが、アメリカの作家ジェイムズ・ブランチ・キャベルだった。反社会的内容を含む《マニュエル伝》に属する『ジャーゲン 正義の喜劇』のある章では、クロウリーの「グノーシスのミサの書」に出てくる儀式が描かれているせいもあった」というようなことが記されていて、それはこの章のことを指しているわけである。

《マニュエル伝》インデックス

前に『ジャーゲン註釈集』があるという話をしたが、今日は《マニュエル伝》全体の註釈集である。これもずいぶん参照した。

私の手元にあるのは1977年にマイクロフィルムから複製されたもの。タイプ打ちの原稿をコピーして製本したという感じの造り、もともとは1954年の本のようである。『イヴのことを少し』を訳す垂野創一郎さんが持っている本書の様子は「プヒプヒ日記」で見ることができるが、その姿は私の手元のものとまったく違う。あっちの方がよさそうだな。『土の人形ひとがた』を訳す安野玲さんが持っているのも、きっとこれだ。

まあ、私はこれでいいけど。

タイトルは、A Glossarial Index to the “Biography of the Life of Manuel”で著者はJulius Lawrence Rothman。この著者の学位論文の一部らしい。

こんなところにジャーゲンが! その2『兵士の報酬』

ウィリアム・フォークナー『兵士の報酬』(加島祥造訳/文遊社)を読んでいると92頁で突然「「ぼくはどんな酒の飲み方も一度は試すんです」と彼は言った——ジャーゲンのように」という言葉が出てきて、訳注として「ジェームズ・キャンベルの小説の主人公、享楽追求家」と記されている。享楽追求家? と思いながら、今日は眠いのでこれで。